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第740話
「強い酒に混ぜた、強い痺れ薬。雪也が作った薬の味はどうだった?」
〝ゆきや〟
その名に松中は目を見開く。そういえば、ゆきやの元によく金髪の青年が来ていたと報告になかったか?
「何をしにきた……ッ」
目の前の彼がゆきやの知り合いだという現実に松中は動かぬ身体を必死に後ろへ下がらせようとした。バクバクとうるさいほどに心臓が脈打つ。
「何って、決まっているだろ? まさかあいつらを殺しておいて、自分は殺されないなんておめでたいこと、考えてないよな?」
松中自身が殺したわけではないとか、そんな些細なことはどうだっていい。彼が大切な者達に悪意を向け、それが現実となった。それだけで充分だ。
懐に隠していた包丁を取り出す。本当は雪也が持っていた刀を使おうかと思っていたのだが、あの美しい刃をこんな奴の血で汚すのは勿体なく、それにあれには紋が描かれていたから弥生に迷惑がかかってしまうかもしれない。それは避けなければならなかったから、松中の屋敷にあった包丁を女たちに持ち出してもらった。
誰にも迷惑をかけてはいけない。これは私怨なのだ。自分と、女たちの。
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