746 / 981
第742話 ※
「ぐッッ!」
ドスッ、と鈍い音をたてて松中の胸に包丁が突き立てられる。松中は命乞いの言葉さえも出せず、ただただ目を見開いて口から血糊を噴出させた。
「お前を殺したって、やっぱり嬉しくないな。皆も帰ってこない。でも、お前を殺さずにはいられないんだ。皆を奪ったお前が息をして、呑気に生きてるなんて許さない」
こんなことをしても何にもならない。汚い血で自らを汚し、罪を得ただけだ。わかっていて、それでも己を止めることはできなかった。己を止めることのできた大切な者達は、松中こそが奪ったのだから。
「グぅ……ッ」
深く深く突き立てられた包丁が勢いよく引き抜かれる。花火のように鮮血が舞い、ドクドクと止めどなく流れ落ちた。これだけ真っ赤に染まれば、その息が止まるのも時間の問題だろう。その時がくるのをジッと待つ。言葉もなく、嗤うでもなく、ただ静かに見つめてくる青年と女たちの瞳に松中は何を感じたのだろう。これ以上ないほど目を見開き、何かに縋らんとするかのように手を蠢かせている。ゴポリと口から血が溢れ、そして、喘いでいた胸の動きが止まった。
ともだちにシェアしよう!

