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第744話
人払いがなされた静かな空間であるというのに、どこか騒がしさを滲ませた一室で領主の名代として数人の補佐官たちが集まっていた。
「すでにご存知の通り、衛府への処遇が帝の許可を得て決定しました。あと数日で将軍や近臣の蟄居は解かれます。近臣は望めば各領が土地を与え農業に従事できますが、それを良しとは思わぬ近臣も多いとか。峰藤としてはそれらの近臣には注意をはらいつつ手出し無用と考えています」
淡々と峰藤の意向を告げたのは杜環だった。衛府が解体されようと影響を受けない領主らは近臣たちを受け入れる義務はあるが、それを求めるかどうかは近臣らの自由だ。無用の争いを避けるために近臣は私財の大半を没収され、領主の庇護下に入ったとしても与えられるのは土地家屋のみで領内での名のある役職などではない。田畑を耕して生活することを選ぶのであれば、作物が育つまでの一年は領の金で近臣らを養うことも補償されている。恨みをかっている者も多いだろうが、それに対しても領が責任もって目を光らせると帝との書簡にて明言した。近臣の屋敷で働いていた者たちも各領が斡旋して他の仕事につけるよう取り計らっている。自らが近臣であったという矜持さえ捨てれば十分に生きていくことのできる処遇だと言えるだろう。だが、近臣の多くは矜持を捨てきることができずそれらを拒んでいる。だが峰藤はそれでも構わないと考えていた。
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