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第745話
大半が国に没収されるとはいえ、近臣の手に少しの私財は残る。それで細々と生きるも良し、元手にして商いを始めるも良しだ。これ以上の争いを起こされるのは御免だが、それでもどうやって生きるかまでを押し付ける権利は誰にも無い。
「我々も峰藤領と同じ考えです。遠くからの監視はしますが、武力を蓄えたり外国と通じて我が国の情報を渡したりせぬ限りは干渉する必要もないでしょう。主要な方々は既に行先も決まっておりますし」
そう告げた箕伏の補佐官に周りの者たちも頷いて同意を示す。衛府復興の旗印とされそうな亡き茂秋公の忘れ形見である鶴頼は生母の静姫宮と共に帝の元へ帰ることが決まっており、芳次公も出家して華都にある屋敷のひとつに住まうこととなった。芳次の屋敷には帝に忠誠を誓う者達が常駐するという事実上の軟禁ではあるが、天下を治めた将軍に対しての処遇としては温情あるものだろう。残る重要人物としては大御上である女院がいるが、長く身体を悪くしていた彼女は蟄居の最中、静かに息をひきとったという。
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