753 / 981

第749話

「仮に秋森殿が動けない状態だとしても、片手で数えられるほどとはいえ使用人は残っているようですから生活に問題はないと思いますが……」  それでも、と言葉を濁す杜環に、周りの者達は皆頷いた。 「お気持ちは理解しています。我々も、秋森殿のことは気がかりです。他の使用人であれば少なくとも我々が気にすることではないのでしょうが、夏川殿亡き今、秋森殿も動けないかもしれないとなると弥生殿が心配です。秋森殿と夏川殿は幼き日よりずっと弥生殿の側にいた存在ですから。この変革の時に、それも春風殿の環境が悪い方へ変わる時に夏川殿がおらず、秋森殿が臥せっているとすれば、弥生殿の心労は計り知れない」  それも風邪のような軽いものであればまだ良いが、情報を聞くにそうでない可能性の方が高いとは。 「このような事を言ったところで何にもならぬとわかってはおるが。杜環殿、私は悔しくてならない」  補佐官の一人が、どこか掠れた声で言う。膝に置かれたその拳は白くなるほど握りしめられ、小刻みに震えていた。

ともだちにシェアしよう!