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第761話
優の元から部屋に戻った弥生は手早く身支度をしていた。以前であれば馬に米やら野菜やらを括りつけて一緒に持って行ったが、今は時間が惜しい。皮肉なことに近臣でなくなった今の弥生はしなければならないことは無く、この後にも充分に時間があった。だから米やら野菜やらは明日届けてやればいいと結論付けて、さほど荷物を持たずに部屋を出る。優の様子も気になるから、早く行って早く帰ろう。そんなことを考えながら足早に父の部屋へ向かった。
「父上、弥生です」
告げれば中から応えがあった。急いている内心を表に出さぬよう努めて平常を装って中に入る。そして久しぶりに見る父の姿に――否、その腕の中にいる存在に弥生は目を見開いた。
「なぜ、サクラがここに?」
そう、父の腕の中には庵に居るはずのサクラがいた。どこか見覚えのある着物に包まれたサクラは、そこに鼻を押し付けるようにして大人しくしている。そんなサクラの頭を父が慣れた手つきで撫でているが、サクラはそれに嬉しそうな顔をすることもなく、ただただ身を任せていた。
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