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第762話

「弥生、これからの事については後回しにしても良いだろうと私は考えている。今でなくとも、夜でも、明日でも、明後日でも良い。決めなければならないことは多々あるが、それが今である必要は無いだろう。ゆえに、今、お前に伝えなければならないことを話したい」  元の場所に戻った父はそう言って湯呑を手にとり、ほんの少し唇を湿らせた。その様子に弥生はほんの僅か、眉根を寄せる。  なにか、嫌な予感がする。聞いてはならないモノがやってくる。  だが弥生の警戒を察しているのだろう父は、それでも湯呑を置いて居住まいを正し、口を開いた。 「お前が華都に行ってくれている間に、火事があってな。お前から知らせを貰って尽力したが、春風だけでは目も手も足りず、私の話よりも身の安全よりも利益を優先させる者がいた。事実を述べるならたったそれだけのことだが、納品を手伝っていた多くの者達が犠牲となった。屋敷は全焼したが、その近くで由弦と火野の息子、たしか蒼といったか、その二人が発見された。残念なことに――遺体、だったが」  ヒュッ、と息を呑む音がやけに響いた。

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