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第777話
「……弥生殿、我々は……、我々は、ただ正義のために戦っただけだ。恩を仇で返そうなどと、決して――」
違う、違うのだと浩二郎は必死に訴えた。浩二郎が雪也達に恨みを抱いたから殺したわけではない。そんなことのために、あの幼い子供に刃を突き立てたのではない。
わかってほしいと願うその懇願は、弥生の小さな笑い声にかき消された。
「正義、あぁ、そうか。正義……。なぜこれほどまでに怒りでどうにかなりそうになるのかと不思議だったが、ようやくわかった。ははは……、正義か……」
正義、正義と弥生は幾度も呟く。瞼を閉じた弥生の眉間には、何かを耐えるかのようにクッキリと皺が刻まれていた。
「お前たちは正義を謳って戦ったのか。ならば、お前たちに殺された雪也達は、悪か?」
正義の名のもとに刃をふるったというのであれば、その切っ先を向けられた彼らは、悪だったのか?
「多くを救わんとしたのが悪か? ただ平穏に過ごしていたことが悪か? ならば同じように倒れた紫呉も悪だったのか? 私を助けんがため、ひいては多くの民を助けんがために走り戦った紫呉も悪か? それとも私に関わった、ただその事実が悪なのか? だがお前たちはその口で言った。私を英雄だと」
弥生と――春風と関わったことが即ち悪であるというのなら、それこそが死なねばならぬ理由であったというのなら、どうしてその張本人たる弥生は生き、彼らに英雄などと言われ、報われてほしいなどと願われているのだろうか。
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