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第779話

「わかってほしい。大儀のためには仕方のない犠牲だったのだ」  浩二郎たちにとって、意味の無い犠牲を出したつもりはなかった。自らの手を血で汚し、夜の闇に乗じて、あるいは大勢で一人を囲むという卑怯な手を使ったとしても、すべては国のためになると信じてきた。否、今でも信じている。だからこそ弥生の糾弾に負けるわけにはいかなかった。自分達が間違っていたと、雪也達の犠牲は必要なかったと認めることは許されない。 「何をわかれと言うのだ。私を止めなければならなかった理由も明確にわかっていないお前たちの言に、何を理解しろと?」  グニャリと、浩二郎の心臓が奇妙に蠢いた。今、弥生は何を言った? 「我々が、なんだと……?」  弥生の言葉が心底理解できないと全身で物語る浩二郎に弥生は凪いだ視線を向ける。 「そうではないのか? 狙われるから生き延びるのに必死だったが、そもそも最初から疑問だった。将軍や近臣、あるいは衛府に絶対の忠誠を誓っている領主が私を止めようとするのならば理解できただろう。私が無事に帰れば、衛府の未来は無くなり、近臣の特権も無くなる。どころか、今までの財すら奪われるのだから」  それが偽りでないことなど、現状が物語っている。弥生は変わりゆく時代を止められないことなど百も承知で、そしてその考えを隠そうともしていなかった。衛府が、近臣が滅びるのならば、それを受け入れるよりないと。

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