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第782話

「私も父も時代が変わることを否と言ったことは無い。ただ変わるとしても戦を避けたいと願ってきただけだ。将軍に進言し、領主らに度々会っていたのもすべて戦を避けるためだ。その心を誰に対しても偽ったり隠したりしたことは無い。ではなぜ戦を避けたかったのか。私にも大切な者がいたからだ」  守りたかった者。見守り、慈しみたかった者。愛した者。共に戦った者。 「同じように、今を生きる人々にも大切な者が、失いたくないと願う者がいただろう。そこに生まれも貴賤も関係ない」  浮かぶのは大切な家族。愛した妻、可愛い子供、育んでくれた父母。彼らの明日を守りたくて刀を握った。  そして今、ようやく気付く。  自分達が願ったように、目の前にいる弥生もまた、雪也達の明日を守らんと戦っていたのだと。弥生だけではない、将軍も、近臣も、市井にいる人々にも、守りたい人は、明日を願う人はいたのだ。

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