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第784話
「その惨劇をくい止め、戦無く時代を次に託すために私は走った。それを将軍も、帝も受け入れてくださった。滅びゆく将軍でさえ、戦を望みはしなかった。上に立つ者の願いが同じであるのならば、戦う必要などどこにもない。だが次々に人は死んでいった。何の罪もない民を巻き込んで」
負の連鎖だった。力が足りなかったことも原因のひとつだと、弥生は理解している。
「お前たちだけが悪いとは言わない。同時に、近臣もまた無辜の民を巻き込んで良いと考えていたことも否定はしない。それを止めんと将軍も春風家も必死になったが、止めきることができなかったのも事実だ。我々もまた責めを負うべきだろう。だが、どうしても納得できないんだ。紫呉も、雪也たちも、何の理由があって死ななければならなかったのか……」
耐えて、必死に耐えていたものがあふれ出し、弥生の頬を濡らす。
彼らにも、明日はあったはずなのに。
「派手に将軍の首を討ち取りたかったのか? 近臣をすべて殺して衛府を完膚なきまでに潰したかったのか? 戦でもってして時代の変化を如実に知らしめたかったのか? 私を殺してでも止め、帝の文を渡すまいとしたお前たちの行動理由を考えても、それくらいしか思い浮かばない。だが、衛府は潰れ、帝が政を行う、お前たちが願った通りの世になった今をよく見ろ。誰が生き、誰が死んだのか」
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