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第785話
襲撃や暗殺で近臣は幾人か亡くなったが、それでも多くの近臣が、衛府に忠義を誓った領主が生きている。なにより、衛府の象徴であり、もっとも権力を持っていた将軍も、静姫宮も、世継ぎたる頼鶴も、傷ひとつなく生きた。当たり前だろう。彼らはもっとも奥にいて、誰を差し置いても守られるべき存在だったのだから。
そしてこの動乱に死んでいった者達は、浩二郎らが狙ってすらいなかった何の権力も持たぬ民が多い。彼らを守る武人はいないのだ。ただ巻き込まれただけであったとしても、力の前に多くの民は無力だ。
「もう一度聞く。私の命を狙ってまでお前たちが見たかった世界は何だ。何を望んだ? そこに、誰が生きている世界だったのか」
今でも迷わずに言い切ることができるだろう。誰も苦しまなくて良い世界。脅かされることなく、虐げられることなく、明るい未来を当たり前のように語り、進める世界。
大切な人が、笑っていられる世界。
――弥生が願ったものと、変わらない世界。
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