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第786話

「お前たちの考えはわからない。だがひとつ私が知ることを教えてやろう。お前たちが志を理解してくれたと思っている松中殿だが、彼はずっと春風の存在を疎ましく思っていた。それは多くの者が知っている。そもそも考え方が相容れなかったからな、分かり合えぬのも仕方のないことだったのかもしれない。そして、雪也はもともと松中殿の屋敷にいた。使用人としてではないのに、松中殿の屋敷にいた。それだけを言えば松中殿を知るお前たちは理解できるだろう。そしてある日、私は松中殿に言って雪也を保護した。――お前たちに雪也を殺すよう唆したのは、いったい誰だ。雪也達が死んでしまったとて、その事実を私が知るのは武衛に帰りすべてが終わった後だというのに。なのになぜ、殺す必要があったのだろう」  問いかけたところで松中は既にこの世にいない。だが答えはなんとなくわかる。弥生にも、浩二郎たちにも。 「まさか……、そんな……」  ガタガタと震える手を浩二郎は呆然と見下ろした。この手が貫いた子供。雪也、雪也と呼んでは彼の後をついて回っていた、娘と同じくらいの子供。大儀のためだと、必要な犠牲なのだと自分に言い聞かせて命を奪った、あの子供。なのに、まさか……。

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