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第790話

「同じように願うのなら、平和を尊べ。平和を叫べ。武器を持って戦うのではなく、その両手で力なき命を慈しめ。たとえどれほど綺麗ごとと言われようと、夢物語だと罵られようと、それを信じ願い続けるかぎり、いつかは平和で人々が笑い合える世が来るだろう。お前たちが願った通りの世界だ。そしてそこに、また新たな命が育まれるだろう」  失われた命は、再び芽吹く時がくる。そう、信じている。 「ほんの少しの別れだ。なぁ、そうだろう?」  それは浩二郎らに向けられた言葉ではない。誰に向けたかなど、問わずとも明確だった。耐えきれなかったのだろう、誰かが悲鳴のように泣き叫んでいる。  浩二郎は腰に佩いた刀を見つめた。国の未来のため、我が子に穏やかで明るい未来を与えるため、覚悟を決めて握った刀。自らの行いの先に願った世界が広がっているのだと信じて、振るい続けた刀。共に駆け抜けたと言っても過言ではないその刀を腰から外す。汚れるのも構わずに膝をつき、そっと刀を置いた。眼前に建つ庵を見つめる。物音ひとつしない、静まり返った庵に何を思ったのか。それは浩二郎にしかわからない。ただ彼はジッと庵を見つめ、そして、深く頭を垂れたのだった。

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