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第791話

 サクラを抱いたまま屋敷に戻った弥生は、来ていた領主らを父に任せ優の部屋を訪れた。白い顔で横たわり瞼を閉ざしている姿にヒヤリとするが、その胸が微かに上下しているのを見てホッと息をつく。足音を立てぬよう慎重に近づいたが、空気の揺れでも感じたのだろうか、優はゆっくりと瞼を開いた。 「あぁ、お帰り弥生。小さなお嬢さんも一緒だなんて珍しいね」  弥生の腕に抱かれたサクラを〝小さなお嬢さん〟と言った優は、どうやら少し機嫌が良いようだ。 「すまない、起こしたな」  起きてしまったのなら仕方がないと、弥生は優の側に腰を下ろす。そっとサクラを降ろしてやれば、サクラはクンクンとしばらく鼻をひくつかせた後、優の身体に尻をくっつけて丸まるように寝転がった。その小さな頭を優が撫でても大人しくしている。その様子に、ハッと弥生は気づいた。 (そうか。ここは庵と同じ匂いがするな)

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