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第793話

 縋りたい気持ちと、苦しませたくない気持ち。それらを天秤にかけて、弥生は笑みを浮かべたまま頷く。 「ああ、皆かわりなかった。いつも通りの姿が、庵にあったよ」  告げれば、優はふわりと穏やかな笑みを浮かべる。そっか、と零された声に、弥生は頷いて見せた。 (これでいい……)  これで良かったのだ。己に何度も言い聞かせて、弥生は笑みを浮かべ続ける。  あなたに嘘をついた。  あえて聞かないことがあった。  見ないフリをしようと思った。  あなたの為だなんて、そんなことは言わない。  ただ、あなたの優しさを無下にしたくなかった、自分の我儘だ。

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