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第795話

 優やサクラがいる部屋の隣、物置のような小さな部屋に機織り機を運んでせっせと織っては、時折優の様子を見にいく。そんな質素で穏やかな生活が続いていた。衛府から華都に政が移ったため、やれ法改正だの身分制度の撤廃だのと世間は目まぐるしく姿を変えているが、あえて関わらないと決めていた春風はただ身を任せ、市井の人々のようにその日その日を生きていた。  時代は変わったが、もう道端にゴロゴロと多くの惨殺死体が転がっていることもなく、恐怖に静まりかえっていた町には賑やかな声が戻ってきた。それだけでも充分と思うのに、どこか虚しさを覚えて時折機を織る手が止まる。小さくため息をついて、弥生は立ち上がった。  コホッ、コホッ、と乾いた咳が聞こえる。襖を開ければ、優が布団に横たわったまま口を押えて咳き込んでいた。 「優ッ」  慌てて弥生が優の身体を抱き上げて背中を摩る。途切れることの無い咳に体力が奪われるのだろう、痩せた優の肩は激しく上下し、力も入らない様子でグッタリと弥生に身を任せていた。

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