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第797話
「ずっと咳き込んでいるわけじゃ、ないから、大丈夫だよ。それに診療代も、薬代もタダじゃないんだから、そう無駄遣いしないで」
寝ていれば治る。近頃は口癖のように優は何度もそう言って心配する弥生を宥めた。ポンポンと優しく太ももを撫でる痩せた手を握る。
「優の身体が良くなるならば、それは無駄な金ではない。今はそんなこと気にするな」
もう近臣でも何でもない。優以外に養わなければならない使用人たちもいない。父と弥生、そして優の生活を守るだけの金は充分にある。なのに優はゆっくりと首を横に振って否と告げた。
「お金はあって困るものじゃないから、置いときなよ。ほんとうに、大丈夫だから」
「だが――」
少しでも良くなるなら呼ぶべきだ。そう言い募ろうとした時、トントントン、と扉を叩く音がして言葉が途切れる。ごめんください、と聞こえる声に、そういえば今日は何か用事があると言って父は不在にしているのだったと思い出し、弥生は渋々立ち上がった。
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