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第802話
「久しぶりにペラペラとよく口を回すものだ」
言葉だけをみれば辛辣そのものであるが、その声音はひどく優しくて、口元には柔らかな笑みが浮かんでいる。そんな内心をまったく隠せていない弥生に、優は嬉しそうに目を細めた。
「せっかく起きたんだ。何か食べるか? 朝に美味しそうな林檎をいただいたんだ」
病ゆえか、優はすっかり食が細くなってしまった。本当はできるかぎり食べてほしいのだが、疲れたように眠る姿を見ると起こすのが可哀想で、結局薬を飲ませる時くらいしか食べさせることができない。それも優が口にするのは小鳥が啄む程度に僅かだ。
米や芋が喉を通らないというなら、林檎をすりおろしたものはどうだろうか。それも無理だというのなら、重湯でも良い。何か食べてほしいと、言葉の軽さとは裏腹に痛切な願いを含んだ弥生の瞳を見て、優は笑みを浮かべたまま小さく頷いた。
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