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第806話
「僕はね、どこまでも連れていってほしかったんだ。だから、もしもこうなることを弥生が知っていて、僕を武衛に置いて紫呉と二人で華都に行っていたら、きっと今以上の苦しみを味わっただろうと確信しているんだ。僕はね、君が戦う時に傍にいられないまま僅かの時を生きながらえるよりも、ずっと君の側にいて、この手を伸ばすことのできる瞬間を生きていたかったんだ。だからね、例え誰が何を言おうと、世間一般的な正解がどうであろうと、君が思い悩もうと、僕にとって最善の道を、弥生は選んでくれたんだよ」
だから感謝こそすれ、恨みや後悔などはない。優の心を守ってくれたのだから。
「…………」
何かを言おうとして、けれど弥生は震える唇を噛んだ。今何かを言えば、声ではなく嗚咽がもれそうで。
「だからね、僕を連れて行かなければよかったなんて、後悔しないでほしい」
身体を労わるなら、ただそれだけを考えるなら、弥生について行かず療養するのが正解だったのだろう。けれど生きるということは、ただ身体を生かすことではない。少なくとも優はそう信じている。
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