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第810話
「……明日を、あげたかったんだ。誰かの正義の犠牲になるかもしれない、命を軽んじた明日ではなく、ただ笑い、ただ穏やかで何気ない営みを繰り返す明日を、私はあげたかった。あの子たちに、サクラに、紫呉に――お前に」
けれど、それは叶わなかった。もはや雪也たちも紫呉もおらず、彼らがいない今をサクラが喜ぶことは無い。そして優は、ずっと部屋で伏したまま変わり始めた世を見ることもできない。
あれも、これも、何も諦めることができない。そう欲張ったから、弥生の大切な人たちは、誰よりも明日をあげたかった人たちは、この手のひらから零れ落ちてしまったのだろうか。
「充分すぎるほどに、僕はもらったよ。ね、弥生」
たとえこの部屋から出られずとも、充分にわかる。
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