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第811話

「こうして自分の身体のことだけを考えて良い今は、充分に贅沢で平和だよ。かつては、沢山の事が気がかりで、心配で、ジッとしていたら何かが失われてしまうかもしれないから、常に気を張り詰めていなくちゃいけなかったけれど。今はそうじゃない。そうじゃない時代が来た。弥生の言う明日を、誰もが享受できる。今だけじゃなく、連綿と、それは続いていくだろう」  そしていつの日か、僕たちはその平和の中にもう一度生きる。 「ありがとう、弥生。ずっと、僕たちのために走ってくれた。守ろうと必死に足掻いてくれた。だからこそ、今がある」  零れ落ちた命もあった。弥生が大切に思い、幸せを願った者たちもまた、零れ落ちた。けれど、すべてが敗北であったなどと、優は思わない。弥生は確かに、明日を繋いでくれた。

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