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第815話
「今日は新入生の初登校日だから、門前が騒がしくなるね」
並木と言うほどではないが、ポツポツとそびえ立つ桜の木を眺めながら歩く。徐々に時期がズレはじめ、もはや入学シーズンには葉桜となっていることの多いこの世界では珍しく、ここに植えられている桜は大学の入学式に合わせるかのように満開となる。今もヒラリ、ヒラリと淡い桃色の花弁を幾重にも降らせ、幻想的な光景を見せていた。そんな中、同じように桜を眺めつつ隣を歩いていた彼がどこか楽しそうに言うから、弥生はそっと視線を向ける。穏やかな笑みを浮かべる彼は、変わらず優しい眼差しで弥生の視線を受け止めた。
「新入生の勧誘か。確かに、しばらくは入るのにも帰るのにも一苦労しそうだな」
この時期の名物とでも言おうか、新入生を勧誘しようと待ち構えるサークルで門の前はごった返しになる。勧誘される新入生も大変だろうが、あまり関係がない三年の弥生達もまた、その門を通らなければ学内に入ることも、家に帰ることもできないため人混みをかき分けて進む必要があった。
そういう雑然とした雰囲気を煩わしいと思うことはなく、むしろ青春そのものの様子を見ているようで楽しいが、揉みくちゃにされて毎回毎回服に皺が寄り、髪が乱れるのだけが憂鬱だ。そこまで外見を拘っているわけではないが、見苦しい姿だけは許容できない。
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