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現代編(紫呉×由弦)
はじめまして。
思えばそう彼に挨拶をしたのは初めてだった。出会った頃の彼は独りだったが、いつの間にか傍らに寄りそう小さな存在がいて、それがかつての姿と重なって懐かしくなる。
サクラ、と同じ名を呼ぶ彼は、けれど何も覚えていないようだった。自分を見た、キョトンとした顔。まったく同じ顔なのに、彼はどこか余所余所しかった。
その瞬間は、寂しく思ったと素直に認めよう。だが、覚えていなくて良かったと思う心にもまた、偽りなどない。
楽しい思い出は沢山あった。それをすべて無かったことにしようなどとは思わない。けれど、辛いこともまた多くあった。それらを忘れていられるのなら、良いじゃないかと思ったのだ。彼が生きているのは、今なのだから。
はじめまして。
また、最初から物語を紡ごう。
俺は紫呉。お前は?
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