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第5話

「いや、なんでもねぇよ。それより弥生は? いつもなら優が起きてきたらあいつも起きてくるのに、珍しいな」  もう一人の同居人にしてこの家を快く貸してくれている人の息子である弥生は理由がない限り優と行動を共にしている。それこそ自分達の部屋があって、それぞれにベッドもあるというのに、おはようからおやすみまで、ずっと一緒だ。紫呉のように一分一秒でも長く眠っていたいという性格でもない弥生は、比較的寝起きも良い。なのに珍しいこともあるものだと思えば、クスクスと優が食パンを切り分けながら笑った。 「弥生はまだ寝ているよ。僕が起きた時に一度起きたんだけどね、昨日は課題のレポートを夜遅くまで書いていたみたいだから、寝かしつけてきたんだ。僕が寝てから自分の部屋に戻って課題をしていたから気づいてないって思ってたみたいだけど、そんなことはないからね」  弥生の事なら何だって知っていると言わんばかりだが、優に限っては本当に知らないことなど無さそうなので下手に突っ込みなどは入れない。長い長い年月を共に過ごした友人の扱い方は心得ている。

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