832 / 981

第8話

 もはや生まれながらの貴賤ですべてを決められる時代ではないから、どこへだって行けた。バラバラに人生を歩む選択もあっただろう。けれど三人は迷うこともなく一緒にいることを望み、気づけば大学まで同じだ。弥生や優が合わせてくれたということもないから、よくぞ自分の学力で彼らと同じ大学に行くことができたものだと、頭を使うことは苦手だと自覚している紫呉は自分のことながら感心したものだ。なかなかに難しい受験ではあったが、それでもここに行かなければならないという衝動があった。理由などわからない。わからないものを説明せよと言われても不可能だ。ただ、どうしても、ここに行かなければならないと、ここでなければならないのだと、そう突き動かされる衝動のままに猛勉強した。それはひとつの運命だ。そして、三人そろって合格できたのも、記憶に残るかつての当主と同じ面差しをした弥生の父が使い道も無かったからと所有していた二世帯住宅を無償で提供してくれたのも、きっと運命だったのだろう。  ザァザァと降り注ぐシャワーを止め、髪を後ろにかき上げる。柔らかなタオルで顔を拭き、深く深く息を吐きだした。 (よし、行くか)  答えの見えない思考に呑まれるのは良くないことだ。考えたところで過去には戻れないし、変えることもできない。すべては〝終わったこと〟だからだ。

ともだちにシェアしよう!