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第15話

 煮るか、焼くか、そもそもそれは由弦に作れるのか、そんなことを言いながら歩いていれば、すぐに大学にたどり着く。また後で、と手を振って由弦は教授の元へ走って行った。  そんな由弦の姿を、ジッと紫呉が見つめる。ふと、少し大きな袴を着て小さな犬と一緒に駆ける姿が重なって見えた。  一緒に稽古をして、木に凭れかかって休む。戯れのようにキスをして、常に側にいた小さな愛犬は仕方が無いなと言うように庵の中に戻って――。  どれだけ開き直ろうと、仕方がないと諦めようと、記憶はそうそうに消えてくれない。今の彼らを愛おしく思うのと同じくらい、過去の彼らも愛おしいのだ。もしかしたら重ねることは失礼で、今を生きる彼らを否定していることになるのかもしれない。けれど、忘れることもまた、愛した彼らを思うと出来はしない。  これはこれ、それはそれ。そう簡単に割り切ることができない。いつかはこの気持ちにもちゃんとした折り合いをつけることができるのだろうか。そんなことをボンヤリと考えながら、紫呉は歩き出す。  あぁ、俺らしくないな、なんて小さくため息をついた。

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