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第16話

「えー、浄閑八年に、えー、二百年以上続いた衛府による統治が終わりを迎えたということです。この全国に及ぶ反乱の後、政権は華都の帝に返上され、えー、当時権力を握っていた近臣――今で言う大臣たちがその職を剥奪され、近臣という役職もこの時代に無くなりました。ここで重要なのが――」  小学校、中学校、高校、と成長する過程で幾度となく習った歴史を初老の教授が訥々と紡ぐのを、紫呉は頬杖をつきながら聞いていた。  浄閑とは清らかで穏やかであるという意味だ。それを考えれば、あの時代が〝浄閑〟という名を冠するとはなんと皮肉なのだろうと思う。  多くの人々が、己の思想を掲げて戦った。そのためならば多少の犠牲は致し方が無いという時代だった。多くの近臣が暗殺され、道には屍の山と赤い血だまりがあった。活気のあった街は恐怖に静まり、変える為、あるいは守るために誰もが刀を握った。そして、弥生は大切な者を守るために走り、紫呉も彼を守らんと槍を構えた。  結末はどうであったのか、紫呉の記憶は存在しなかった。それもそうだろう、結末を見る前に紫呉は死んでしまったのだから。 ※入稿作業のため28日~30日まで更新をお休みいたします。申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。

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