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第18話

 結末を思えば、時折虚しく感じることもある。口にはあまり出さなかったが、紫呉はもちろん、弥生や優もまた、庵に残してきた大切な者たちの為に戦い、命を懸けて走った。なのに必死で掴んだ世界に、彼らはいなかったのだ。その事実がどうしようもないほど心を重くさせる。きっと弥生も同じ気持ちだったのだろう。だから彼はあの動乱の後も人々が求めるのにひたすら首を横に振って、ひっそりと隠居生活をしていた。あれだけ目立つことをやっておきながら、教科書に春風の名前すら載らないほどに彼は表舞台から身を引いたのだ。 (でも今は、あいつらは生きている)  紫呉たちが命を懸けて掴んだ平和は、幸いなことに今もまだ続いている。人々はその手に武器を持つこともなく、明日を疑うこともない。貴賤なく学校で学び、子供たちは未来を夢見ることができる。そんな世界に、再び彼らは生を受けた。不思議な事に、紫呉たちと同じ時に、同じ場所に集って。

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