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第28話

 本当は忘れ物なんて無いけれど、でも、雪也と周と紫呉だけで帰るのはやっぱりちょっと妙に胸がざわついて不安になる。だから咄嗟に嘘をついたけれど、これではまた紫呉に〝どれだけ忘れ物をするんだ〟と思われるかもしれないと口にしてから気づいて、由弦は自然を装って動かしていた箸をピタリと止めた。恐る恐る紫呉の方を盗み見ると、彼はキョトンとした顔をしていたものの、特に何かを言う気配はない。良かったと胸を撫でおろした時、周の小さなため息と、小さく笑う弥生の声が聞こえた。 「若さとは良いものだな。甘酸っぱくてもどかしい」  焼き魚を解しながら言う弥生に由弦は思わず首を傾げる。自分だって若いだろうに何を言っているのかと心の中でツッコミを入れた時、ふと、もしかして弥生は紫呉の淡い想いを知っているのではないかと思った。

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