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第31話

 喉を詰まらせないようにしながらも急いで食べて、けれどやはり帰路につく頃には雪也の瞼は半分ほど閉じ、ふわり、ふわりと幾度も欠伸を零していた。それを心配そうに見る周や、誰かにぶつかったり転んだりしないように見ている紫呉が雪也の両脇を固めて歩く。けれど雪也は確かに眠そうではあったものの足取りはしっかりとしていて、何かに躓くこともなければ誰かにぶつかることも、眠すぎて足が止まることもなかった。側に紫呉がいるからか、雪也目当てに誰かが話しかけてくることもない。せいぜいが遠巻きに見ている程度で、そのくらいであれば全員慣れていて気にも留めない。由弦が心配していたような恋敵同士のバチバチとしたやり取りもなくて、どこかホッとしたような、モヤモヤしたような、そんな複雑な気持ちを抱えながら皆の一歩後ろを歩く。どれだけ歩みをゆっくりにしようと、家は大学のすぐ近くだ。グルグルと考える暇もないほどに早く着き、扉を開けた瞬間にヒョコリと小さな犬が顔を覗かせた。

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