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第32話
「お! サクラじゃねぇか。なんだ? 足音でも聞こえて待ち構えてたのか?」
由弦よりも早くサクラに反応したのは紫呉だった。大きな手で抱き上げられた彼女は嬉しそうに舌を出しながら笑っている。
小さな、大きさ的にも重さ的にもちょうど人間の新生児サイズのサクラは白と黒のまだら模様をした犬だ。よく子犬に間違われるが、これで立派な成犬であり、由弦が面倒をみている愛犬だが、愛らしい彼女は隣の先輩組を含めてこの家のアイドルだ。誰もがサクラを家族と認識し、可愛がっている。それが分かっているのだろう、サクラもよく懐き、よく甘えた。そんなサクラは抱き上げられたまま紫呉の胸に頭を擦りつけており、紫呉も嬉しいのかサクラを撫でくり回している。玄関で行わる穏やかな光景に笑っていれば、隣に立っていた雪也がまぶしいものでも見るかのように美しく微笑み、そっと家の中に入った。きっと眠気が限界だったのだろうと、由弦も何も言わずにその背を見送る。
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