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第35話

 かつて小さなサクラと寄り添って生きることに精一杯という環境だった由弦は、その労苦を労われたのか今世ではお金持ちのお坊ちゃまだ。だからといって家を継がなければならないと縛り付けられることもなく自由に過ごし、何事も経験だという両親は由弦のルームシェアも快く許可した。そんな環境だからだろうか、由弦は寛大にこそなれ、驕ることも傲慢になることもなく、前世と同じ素直さと優しさを持っている。そして、嘘をつけないという可愛くも深刻な欠点も。 「わかりやすすぎるんだよなぁ。あの顔で何でもないってありえねぇぞ」  もはや何回目かもわからない、大丈夫か? の問いかけに返された〝なんでもない〟の言葉。由弦が何かに悩んでいるのは明白であるが、それの原因がわからない紫呉はリビングの椅子に座りながら深々とため息をついた。そんな彼に珈琲を渡しながらクスクスと笑っている優は、紫呉と対面に座っている弥生の横に腰かける。

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