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第44話
一人一人に個室があるとはいえ、そう大きな作りではないから、由弦の部屋から雪也の部屋まではすぐだ。角に位置するその部屋の扉を前に、コンコンとノックする。
「雪也、ちょっと良いか?」
今日の講義は午前中で終わり、夕飯当番でもない雪也は自室にいるだろうと思って来たが、ノックの音にも反応が無い。もしや由弦の知らない間に買い物にでも出かけたのだろうかと首を傾げた時、カチャ、と小さな音がして扉が開いた。
「あ、悪い。寝てたか?」
扉の隙間から顔を出した雪也に、由弦はクシャリと申し訳なさそうに顔を歪めた。いつもは少しの乱れも無く一つに結ばれている雪也の長い髪が背に降ろされている。
「いや、大丈夫だよ。寝ようとしてたわけじゃないから。それより、どうかした?」
優しく微笑みながら首を傾げる雪也に、由弦は「あー」と声を零しながら視線を彷徨わせる。寝ていたわけではないにしても、くつろいでいただろう雪也の時間を邪魔するのは申し訳ない。雪也がよく眠るのは誰もが知っていることであるのに、それに考えが及ばず勢いで来てしまったことに後悔ばかりが押し寄せて、せっかく用意していた口実さえも思い浮かばない。しかしそんな由弦に構うことの無いサクラはトテトテと雪也に近づき、その足に頭を擦りつけた。
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