872 / 981

第48話

 話くらいなら聞くよ、とその優しい声音で言う。同じ歳のはずなのに、どこか母親のようにすべてを包み込んでくれるかのような声音だ。その声に、由弦はめっぽう弱い。 「あー、その、なんて言うか……」  聞きたいことがある。そのために下手だと自覚している嘘までついてここにやってきた。けれどそれを直球で投げかけるのは躊躇われて、由弦はキョロキョロと視線を彷徨わせ、言葉を探す。そんな由弦を急かすことなく、雪也は静かに待った。チラ、と眠っていたサクラが瞼をあげて由弦を見つめる。 「ちょっと、聞きたいというか……、と、友達がさ! 変なこと、言ったから……」  まるで本当の事のように嘘をつく技術など由弦は持ち合わせていない。誰がどう聞いても、そんな〝変な事を言った友達〟はいないだろうとわかるものだ。けれど由弦は下手な嘘をつく割には真剣で、それが分かっているからこそ雪也も嗤ったりしない。友達の部分には触れず、変な事? と先を促した。

ともだちにシェアしよう!