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第49話

「その、なんて言うか……、紫呉、先輩が、その……、雪也のこと、好きなんじゃないかって……」  回りくどく探るなんて由弦には出来ないし、仮に多くの情報を得られたとしてもそれを纏めるという頭の器用さもない。だから、と内心ビクビクしながらも由弦は聞きたい部分を口にした。その言葉に雪也はキョトンと目を見開くが、不自然なほどノートに視線を降ろしている由弦は気づかない。 「それで、その、雪也は、どう思ってるのかな、って。ほら、雪也はあんまり、そういう話しないだろ?」  由弦たちだって健全な男子大学生だ。恋に興味を持って当たり前であるし、あいつ彼女できたんだって、とか、隣のクラスの子が好きらしい、なんて顔を合わせれば口にするくらい日常的な関心事と言えるだろう。だが雪也は多くの人から好意を持たれ、なんならバラの花束を渡されてプロポーズのようなことまでされたというのに、そういった恋愛の話をすることは無い。好きだと言われても少し困ったような顔をしてごめんなさいを繰り返すばかりだ。

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