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第50話

 雪也は鈍いから、雪也はそういう物事には興味がないから。いつだってそう思ってきたけれど、紫呉のことを考える度に〝本当にそうなのか?〟と由弦は思い始めた。  だって、雪也だって、誰かを好きに思う気持ちはあるだろう。その相手が誰なのかによって、誰かが喜び、誰かが泣くのだが、それは雪也に限った話ではない。  普通に、何でもないようにと呪文のように呟きながらそう問いかけた由弦の耳に、クスリと小さな笑い声が聞こえて、思わず顔を上げる。そこには優しく微笑みながらもクスリ、クスリと笑う雪也の姿があった。 「それを気にしてたから、最近すこし様子がおかしかったの?」 「え……?」  おかしかった? と由弦は首を傾げる。その様子に雪也は再びクスリと笑った。 「おかしかったよ。挙動不審というか、何かに緊張しているというか。由弦自身に何かしらの変化があったのかな? って思っていたけど、それはちょっと違ったみたいだね」  まさか僕と紫呉先輩の仲を疑われていたなんて、と雪也にしては珍しく笑いが止まらないようで、口元を手で覆いながらも小刻みに肩を震わせている。その様子に由弦はそんなにも自分はおかしかったのだろうかと、一瞬で顔を真っ赤にした。そんな由弦の姿に、ようやく雪也も笑いをおさめる。

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