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第51話

「何も心配しなくて良いよ」  由弦が心配するようなことは何も無いと雪也は繰り返す。それはその場限りの取り繕いには聞こえず、由弦はそっと雪也の瞳を見つめた。 「僕にとって紫呉先輩は親しい大学の先輩で、紫呉先輩にとっての僕は、きっと少し仲の良い大学の後輩だろう。それ以上でもそれ以下でもない。だから、何をどう思ったのかしらないけれど、由弦は何も心配しなくて良いし、不安になることもないよ」  今の関係が変わることは無いと雪也は断言した。それ以外の真実は無いと言うかのように。 「……じゃぁ、雪也が紫呉先輩と付き合うとか、好きになるとかは……」 「無いよ。紫呉先輩のことは好きだけど、それは親愛とか尊敬であって、由弦の言う好きじゃないから」  そもそも紫呉とてそんな感情を雪也に求めてはいないだろう。紫呉が雪也をそういう意味で好きになったことなど無いのだから。由弦が心配する必要も、気を揉む必要もない。だからこそ雪也は安心できるように断言したのだが、その思いに反して由弦はどんどんと表情を暗くさせた。薄っすらとその瞳に涙が浮かんでいるように見えるのは気のせいだろうか?

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