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第52話

「……そっか」  由弦にとって紫呉と雪也が恋愛関係にならないのは嬉しいことのはずなのに、どうしてそんな顔をしているのだろうと雪也は首を傾げる。そんな雪也に気づくことなく、由弦はどんどんと顔を俯けた。 「由弦?」 「じゃぁ、さ、……その、雪也は今、誰かと付き合ったり、好きだったりするのか?」  小さな、それこそ蚊の鳴くような声で由弦は問いかける。言葉は理解できるはずであるのに、まるで未知の呪文を唱えられているかのような気になって、雪也はますます首を傾げた。 「……好きというなら、先輩達も含めてここにいる皆が好きだよ。でも、さっきも言ったようにその好きは由弦の言う好きじゃない。それから、誰とも付き合ってないし、そういう意味の好きは、誰に対しても持っていないよ」  何が由弦の中で引っかかっていて、そんな質問をするのかわからない雪也は、何を含ませることもなく純粋に答えた。それしか無かったと言えばそれまでだが、由弦はほんの僅かに視線を彷徨わせた後、そっか、と小さな声で呟く。

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