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第58話
「買いに行くか?」
なのに紫呉の胸の内など知らない由弦は、雪也の為に買いに行こうと言う。
「お前が食いたいなら買いに行っても良い。それか、雪也がなんか落ち込んでんのか? それともまたあんまり食わなくなったか?」
雪也はとてもしっかりしていて、何も手のかからない自立した人間のように見える。確かに雪也は誰かを頼ったり負担を強いるようなことはしない。自分がしなければならないことは自分で出来る人間だ。しかし、同時に自分だけで完結する事柄に関しては抜けていることも多々ある。面倒だから、眠いから、そんな気にならないからと食事を抜くこともしばしばだ。また食事を抜いたのであれば大福を食べさせるのもひとつの手かもしれないと紫呉は一応考えたが、由弦は半ば予想していた通り首を横に振った。
「いや俺はどっちかっていうとフルーツ系の方が好きだから小豆の大福はいいや。それに雪也は別に落ち込んでる風でもなかった。飯も今日はちゃんと食ってたし。なんでだ?」
コテンと首を傾げる由弦は本当に不思議そうで、紫呉は再び大きなため息をつく。
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