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第59話

「雪也が落ち込んでるんでも、食べてないわけでもねぇんなら、なんで大福買いに行くんだよ。別に誕生日でも何でもねぇのに」  歩いていて見かけたから、ならまだわかる。だがわざわざその為だけに家を出て大福を買ってくるなど、受け取る雪也も困るだろう。 「でも好きなものを自分の為に買ってきてくれたら喜ぶんだろ?」  は? と首を傾げる紫呉を他所に、由弦は何故か拳を握りしめて力説しだした。 「ほら、好きなもの貰ったら〝私の好きなもの覚えててくれたの?〟とか〝わざわざ私の為に? もしかして、これって……〟みたいになるんだろ!?」 「由弦、どこで何を見たんだ?」  あまりにコテコテな――もとい王道中の王道物語の一節を聞いているような気がして、紫呉は思わず額を抑えて背凭れに沈み込んだ。そんな紫呉の様子に由弦は子犬のようなつぶらな瞳をしながら首を傾げている。フッ、と先程まで沈黙していたサクラが寝ながら鼻で笑った。

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