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第64話

「由弦~、テーブルの上で溶けてないでレポート書いた方が良いよ~」  いつものように少し間延びした声で蒼は言う。その茶色い瞳にはノートや筆記具を横に寄せてテーブルに突っ伏した由弦の姿があった。蒼の隣に座っている湊がツンツンとその頭を指で突いてみるがピクリとも反応しない。 「由弦、食わないんなら俺が由弦のチョコ食べちゃうぞ?」  由弦が用意した個包装のチョコレートを指さして湊が言うが、それにも由弦は反応しなかった。これは重症である、と湊と蒼は顔を見合わせる。 「ん~、僕らが帰ってくるまで先輩たちの所に行ってたみたいだけど、なんかあった?」  それ以前の様子は知らないが、少なくとも隣から帰ってきた由弦は顔を俯けていた。三日後が期限だと言っていたレポートをやった方が良いと言っても上の空で頷くだけで、結局勉強道具は持ってきたものの由弦はテーブルに突っ伏して動かない。それに今日に限らず最近の由弦は少し様子が変だ。きっと紫呉先輩が関わっているのだろうと予想して言った言葉に、由弦は肩をピクリと震わせ、クッションに埋もれて寝ていたサクラはうんうんと頷いた。

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