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第66話

 袋を開けたまま指で弄っていた由弦は、そこで言葉を途切れさせると、間を持たせるようにチョコレートを口に含んだ。これはたまに雪也が食べているもので、きっと好きなのだろうと紫呉に教えたら何故か渡されたものだ。雪也に渡してほしいという意味かと問えば、それは由弦にあげたものだと紫呉は言った。だからこうして由弦が食べているのだが、考え事をしているせいか、あまり味がわからない。 「紫呉先輩にしては随分ロマンチックな言い方してるね~」  ハッピーエンドという言葉を選んだ紫呉に蒼はほんの少し目を丸くしていた。その様子に、あぁ、そうか、と由弦は思い出す。 「いや、その前に、なんて言うか、漫画の話をしてたから。俺が漫画にはこう描いてあったって言ったら、現実は漫画みたいに決まったゴールに向かって歩いてるわけじゃねぇから、何かをした後にハッピーエンドになるかバッドエンドになるかなんて分かんねぇって」  だから、ハッピーエンド。と言った由弦に湊は納得したように頷いたが、蒼はあはは、と棒読みで苦笑した。その笑顔もなんとなく引きつっている。

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