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第84話
ポン、と由弦の頭に手を乗せる。柔らかな、陽だまりのようなその髪を愛おしむようにクシャリと撫でた。
「お前が生きてるのは、俺が生きてるのは、今この時なんだからな」
過去には戻れないし、戻る必要もない。あれほど願った平和な世界で再び出会えた。それこそが奇跡と言っても良いだろう。なら、過去を持とうと、持つまいと、今を精一杯生きるべきだ。それが苦悩に満ちていたとしても、進めば道は開かれる。
明けない夜はなく、春の訪れない永遠の冬もない。少なくとも紫呉はそう信じている。
「お前がどんな道を選ぼうと、俺がどんな道を進もうと、そこにはきっと幸せがある」
そうだろう? と笑った紫呉は先程まで固まっていた姿とは異なり、やっぱりカッコよくて、優しくて、由弦を包み込むようだった。
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