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第87話

「いや、何でもねぇよ。ちょっと考え事してただけだ」  言って雪也からわざとに視線を外す。そんな由弦に首を傾げながらも、周はサクラを抱いたまま雪也の隣に腰かけた。退屈になってきたのだろうか、雪也にちょっかいをかけようとするサクラの手をそっと握っている。  雪也が大好きで、けれどサクラのことも大切にしてくれる周。その姿に由弦の胸は突然痛みだした。 「ごめんな、周」  衝動のままに零れた言葉に周は振り返る。不思議そうに見つめてくる視線を、由弦は真正面から受け止めることはできなかった。 「ごめん。俺はお前を傷つけてるよな」  周が雪也のことを好きなのは知っているのに、由弦は紫呉と天秤にかけた。そして紫呉は望んでいないだろうに、由弦の心が悲鳴をあげるから雪也の情報を紫呉に渡してくっつけようとした。もしも雪也が紫呉と付き合うようになったら、泣く者の一人に周がいる。わかっているのに、それでも由弦は止めなかった。  きっと、何となくであったとしても由弦の考えには気づいているだろう周は、いつか由弦を嫌いになる。雪也が絡むことに関して、彼が何も思わないわけはないのだから。  けれど由弦の予想に反して、周は淡々と否、と答えた。

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