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第88話

「別に、俺は由弦に傷つけられた覚えなんてない。だって由弦は盛大な勘違いをしてるだけだから、由弦が何をしたってコメディ漫画を見ている感覚になるだけ。傷つく要素がどこにも無い」  必死に頭を回転させて動いたことも、悲痛な思いで謝ったことも、由弦の行動すべてがコメディ漫画だと言われて由弦は思わず目を見開いた。一応は気にして様子を窺っていたのだろう蒼と湊が同時に吹きだす声が聞こえる。 「こ、コメディ? でも、俺は――」  あまりに予想外で、由弦の頭の中は真っ白だ。けれどコメディのように、ふざけていたとか、あるいは笑いを取ろうと思ってしたことではなく、いつだって自分は真面目に考えて行動していたのだと由弦は叫びたい気持ちになるが、真っ白になった頭はちゃんとした言葉を出してくれない。ワタワタと慌てるその姿に、周は静かに首を傾げた。 「悪いけど、コメディだよ。だって由弦は、何もわかってない」  ね? と腕の中にいるサクラに周は同意を求める。由弦の愛犬であるサクラはやれやれと言わんばかりに大きな鼻息を響かせた。

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