921 / 981
第97話
「じゃ、蒼も気をつけてな。サクラ、すぐ帰ってくるから」
玄関に向かいながら言えば、蒼はニコニコと微笑みながら「よろしくね~」と手を振り、サクラは盛大なため息でもって応えた。これは今日の散歩は長くなるな、と苦笑し、由弦は速足で大学に向かう。
湊の居場所はわかっているとはいえ、一応自分が届けに行くとメッセージを入れておいた方が良いかと悩んでいたら、すぐに門前までたどり着いた。端に寄って手早く《いま門についた。蒼から預かったもの届けに行く》とメッセージを入れると、ちょうど終了時間だったのか校内がにわかに騒がしくなる。これは早く届けてやらねばと第二校舎に急いだ。
講義が終了して帰宅するのだろう、ゾロゾロと歩く人々を避けながら足を進める。目の前に第二校舎が見えた瞬間、由弦はチラと時計を見て一心不乱に進めていた歩調を少し緩めた。この時間ならば余裕で間に合うだろう。そう息をついた時、その名が耳に飛び込んできた。
「紫呉くん、今から実験室に行くの?」
「私たちも同じだから一緒に行きましょうよ」
ともだちにシェアしよう!

