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第99話
「雪也、もう帰るのか?」
紫呉が顔を上げた先にたまたま居たのだろう、雪也が紫呉の声に反応して振り返る。小さく微笑んで近づいてくる雪也に、紫呉の周りにいた女性達は隠そうともせずキャァキャァと黄色い悲鳴をあげた。
「まだ講義があるので帰れません。先輩はもう帰るのですか?」
穏やかな声音は、少し離れている由弦の耳には届きにくい。途切れ途切れになるそれを、どうしてか必死に聞いている自分に由弦は気づかなかった。
「いや、俺もまだ帰れねぇな。帰り時間が一緒なら送ってやるよ」
「子供でないのですから大丈夫ですよ。それに、今日は買い物に行かないと」
周が一緒に行ってくれるのだと言う雪也に、そうか、と紫呉が笑う。ポン、と紫呉の大きな手が雪也の頭に乗せられた。それを見た瞬間、由弦の胸が大きく騒めく。
あの日と同じだ。
あの日、眠っている雪也に、紫呉は手を伸ばした。あの時はサクラが紫呉の手の下に身体を滑り込ませたから何も無かったけれど、それでも、あの日抱いてしまった感情を覚えている。
雪也に、自分は――。
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