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第100話
「――る? 由弦? どした?」
呆然と見つめながらグルグルと渦巻く感情に呑まれていた由弦は、強く肩を揺さぶられてハッと現実に引き戻される。紫呉たちがいた視界には心配そうに眉根を寄せている湊が映っており、紫呉たちの姿は隠れて見えない。そのことに気づきもしなかったと由弦は苦笑した。
「悪い、何でもない」
記憶にあるはずのないものが頭に蘇るのだ、などと言われても湊は困るだろう。友人を困らせるわけにはいかないし、頭のおかしな奴だと思われるのは嫌だ。だから何でもないフリをして、由弦は笑って誤魔化した。
「これだよな? 悪い、講義間に合うか?」
決してわざとではないが、この場に足を止めていた時間は長かったように思う。大丈夫だろうかと心配する由弦に、湊はニカッと笑った。
「サンキュ。ぜんぜん余裕で間に合うから大丈夫だよ。届けてくれて助かったぁ」
一時はどうなることかと、と湊は大げさに安堵の息をついて見せた。
聞かれたくないなら、忘れてあげる。そんな湊の態度に、由弦は声に出すことなく、ありがとな、と呟いた。
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