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第102話

〝すぐに迎えに行くから〟 〝必ず迎えに行くから〟 「だから……、ちょっとだけ、待っ、て――」  何かが蘇る。由弦は目を見開いた。  そう、約束をした。必ず、迎えに行くからと。  炎が見える。倒れ伏した人々。泣き叫ぶ声は、蒼のものか?  いつだって一緒だった。絶対に離さないと約束をした。変わらぬつぶらな瞳で由弦を見上げる、小さくて、可愛い子。いつものように由弦の側に駆け寄ろうとして、それを由弦自身が止めた。あの子を、炎の中に連れて行くわけにはいかなかったから。  何一つ手放す気などなかった。諦めたつもりもなかった。だから、すぐに帰ると約束をした。あの子に、約束をした。 「サク、ラ……」  変わらぬ瞳に、気づけば涙が溢れていた。思わずサクラに手を伸ばし、その小さくて柔らかな身体をギュウギュウと抱きしめる。 「サクラ――ッッ」  ずっと、待っていたのだろうか。  あの日から、ずっと。 「ごめんッ。ごめんな……ッ」  ずっと一緒だと約束をしたのに。一緒に紫呉の帰りを待とうと言ったのに、あんな所で、置き去りにしてしまった。  この身が刃に貫かれ、地面に倒れ伏したことを思い出す。そんなことなど知らない〝サクラ〟は、きっと、ずっとずっと待っていただろう。  待って、待って、この世界に生れ落ちてさえ、由弦が来るのを待っていてくれた。

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